株式会社まるい 代表取締役 鈴木大輔さんを取材
父親の2代目から3代目の鈴木大輔さんになり、商店街の普通の魚屋から、朝獲れ鮮魚を新鮮な状態で首都圏の有名店へお届けする卸売業へと大幅な事業拡大を実現してきた。
そして、加工した食料品を、海外や全国へ販売する「食料品製造業」へと業態転換を決意し、それを実現するため、事業再構築補助金、食品産業の輸出向けHACCP等対応施設整備事業助成金を最大限に活用した。
◎会社概要
・会社名 株式会社まるい
・代表取締役 鈴木大輔
・設立 1962年
・所在地 294-0056 千葉県館山市船形1084
・経営理念 共創共栄(共に時代を創造し、共に栄える)
・経営目的 価値ある商品で最高の顧客満足の追求
・ビジョン 優れた商品とサービスを通じて、人々に満足を提供する
・ミッション 水産業を通じて人々に感動を与え続け、地域・社会に必要とされる存在になること
「行動こそ真実」
鈴木さんは魚屋を継ぐのがいやで、イタリアンレストランのシェフをしていた。24歳の時、父親が緑内障の手術をすることになり、1カ月だけの約束で家に戻った。その後、日蓮宗の尊敬する方から「(家業に)戻った方がいい」とのアドバイスを受け、素直にそれに従った。しかし、給料は安くて新車の車も買えない(妻もあきれていた)。そのうえ、朝4時から夜8時まで働く毎日のため、相変わらず魚屋はやりたくなかった。
ある時、父親に連れられて市場の入札に立ち会った。他の人が高級魚のアカムツ(ノドクロ)を購入しているのを目の当たりにし、「うちも仕入れて売ろう」と父親に提案したが即却下された。だが鈴木さんは、あきらめない。翌日内緒でアカムツを購入した。そしてそれを東京銀座の寿司店に飛び込みで持っていった。しかし板前から「30年魚を見ているんだ」と怒鳴られ、裏口で30分近く待たされることになった。ところが、その板前がそのアカムツを一目見るや目の色が変わり、「これをどこで仕入れた」と問われたほど、素晴らしい魚だった。
その後、何度か仕入れた魚をその店に売りに行くと、そこの親方の先代から、「甥っ子を紹介するよ」と言われた。その甥っ子は銀座で居酒屋を10店舗経営する人で、そこへの納入も開始することになった。こうした行動力の源が何であったか尋ねると、「アイデアは行動力から」「行動こそ真実」との信念によるものと語っていた。このように売上を拡大できたので、父親に1.5トンのトラックを買ってくれとお願いしたが、反対された。しかしこの時も反対を押し切り購入。その後、商売が順調に拡大し、32歳のときには15台のトラックを持つまでになった。
「朝獲れ鮮魚364日」
2007年、34歳のとき高速道路の館山自動車道が開通した。まるい鮮魚店はインターチェンジから5分という地の利を最大限生かすことになっていく。羽田物流拠点に掛け合うと、午前11時半までにセンターに届ければ、1都3県の飲食店に14時から16時までに届けてくれるという。こうして「自前の物流網」を持ったことで、まるい鮮魚店は大きく成長した。元旦を除く「朝獲れ鮮魚364日」として、1都3県の得意先店舗に魚を運ぶ商売を始めたのだ。そして、2017年の44歳のとき、まるい鮮魚店の2階に「佐助どん」という飲食店を開業した。じつはこの佐助どんという名称は、まるい鮮魚店の元々の屋号であった。
このようにまるい鮮魚店も鈴木さんも大きく成長できたのだが、実は28歳の時に哲学に出会い、教えを受けたことが大きく影響している。特に「人を憎んじゃいけない。だがこいつにだけは負けないというものを、一つだけ持っておけ」という教えは、今でも強く心に刻みつけらえているとのこと。また日蓮宗の教えからも影響を受けているそうだ。高卒の鈴木さんは、それまで勉強というものをあまりしてこなかったが、この哲学との出会いから、学ぶこと、疑問を持つこと、気づくことの大切さを実感し、心理学など様々な分野の勉強をした。毎日いろんなことを学び考え続けている。
事業再構築補助金を活用し、工場を建設、施設整備事業助成金でHACCP認証も取得、海外へも販売
そして事業再構築補助金を活用し、工場を建設した。またHACCP等対応施設整備事業助成金でHACCP認証も取得した。こうして、加工品を国内だけでなく海外に販売することを目指すことになったのだ。急速3枚おろし加工鮮魚を作る「冷凍水産物製造業」、また鮮魚の干物を作る「水産食料品製造業」に進出することになるのである。
食品製造を推進するにあたり、「職人」がボトルネックになると考えた。そこで社員の誰でもができるよう標準化をはかり、作業を機械などに置き換えられることを考えた。さらにEC及び自動販売機による冷凍釜飯販売事業も展開予定である。
冷凍釜飯は「佐助どん」メニューの「ふぐのだし汁」を使った釜飯がベースとなっている。また、海鮮食材と地元の野菜やフルーツを用いた、「冷凍ピザ」の商品化も検討中である。いずれも、なるべく地元農家の作物を活用するよう意識している(各種計画書より)。
ビックサイトの展示会で機械を知る
このように多様なアイデアを次々に実現していく鈴木さんは、アイデアを企画にまとめ、それを計画、実現していくのに必要なことがあるという。それは機械を知ることであると。様々な機械を知れば、様々な気づきが生まれ、どのようなことが出来るか、どんな商品が作れるかの具体的なアイデアが浮かぶ。
そのため頻繁に幕張やビックサイトの展示会を見に行く。アイデアを具体的な商品として実現するスピードの速さは、ここから生まれているのかもしれない。
常に心掛けていることは、人とは違うことをしたい、人のやらないことをする、そしてとにかく行動する、何でも知る、ということである。デザインにも興味があるそうで、ドアの取っ手一つにもこだわるとのことである。
魚を売っているというより「感動」を売っている
会社が魚屋から食料品製造業へと大きく変貌するにともない、社員の意識も変わってきた。何のために、そして何を目標に働いているのかを理解している人だけが残った。学ぶことの大切さと自身の成長を実感した鈴木さんは、従業員にも研修機会を提供するよう努めている。社員全員がお客さまのことを親身に考えるようになった。実際にお客さまからも、魚がおいしいという声と同時に、親切で丁寧なスタッフだと言われることが多くなった。それが何より嬉しく誇りに感じているという。鈴木さん自身、実際に魚を販売しているが、魚を売っているというより「感動」を売っているという意識が強い。「まるいが選んだもの」は本物で、いいものという誇りもある。このような経営者だからこそ、息子と娘もおそらく心の中で尊敬しているのであろう。この2022年の4月から株式会社まるいで働くことになった。
今後の展望
最後に今後の展望を聞いてみた。
まずは海外進出を成功させたい。館山の安心・安全な魚を海外の人に食べてほしい。次に地元の館山地域の雇用である。若い人が売る喜びを感じながら、楽しく働く場を提供していきたい。そして館山まるごと房総を売る、ECビジネスを展開したいとのことである。地域を前面に出すため、地元の有志とECに特化した会社を設立した。
<インタビューをして>
経営理念の「共創共栄」とは、「共に時代を創造し、共に栄える」という意味である。おそらく家族であり社員や地域、館山そして南房総の人や社会が「共」であろう。自分だけ、自分たちだけが成長するという意識がない。「共に」を常日頃考えながらも、創業60年の歴史を背負っている。そして次々と果敢にチャレンジしているのが鈴木さんである。
最後に、株式会社まるいのホームページ https://www.marui-sakanaya.com/ に記されている、創業精神を紹介する。
◎創業精神
本物を伝え、感動を与える
「感動がなければ、商品価値はない」
まるいに受け継がれてきた創業者の想いです。商品価値と感動価値はまるいの自信と誇りです。常に時代を創造し、皆様に支えられて伝統を守り続けてきました。出会いと海に感謝して、本物を守り続けて感動をまるいは日々与え続けます。
2022年8月
インタビュアー:経営創研株式会社 堀部伸二