株式会社カジマ 代表取締役 梶間 桂子さんを取材して

カニの加工や冷凍食品の製造販売、お店でのお弁当やお総菜の販売、また飲食店も経営している株式会社カジマ代表取締役の梶間桂子さん(以下桂子さん)にお話を伺った。桂子さんは、何度か襲ってきた倒産の危機を、大変な苦労の末に立て直したのである。2011年の東日本大震災での津波による大被害や、2020年の新型コロナウイルス感染症による売上激減なども乗り越え、地域一番の会社にまで成長させたのである。近年は手作りを基本とした、かにの加工品を開発している。「ずわいがにたっぷりコロッケ」は、全国コロッケフェスにおいて総合優勝を受賞。大洗ブランド認定商品でもある。

経営創研は約10年間にわたり、経営番頭サービスとして(株)カジマを支援してきた。桂子さん曰く「おかげさまで、それまで一切なかった『会議をする』という文化を根付かせてくれました」と感謝の言葉をいただいた。

取材が終わろうとしたときに、桂子さんはそういえば自分はまだ30代だったが、社長就任にあたり、経営理念を書いたのを思い出したと話された。後日、当時の手書きで書かれた経営理念(経営信条と記載)をメールにてお送りいただいた。

経営信条
  • お客様の満足、取引先の満足、従業員の満足、企業の満足。

この4つの満足を持ち、社会に奉仕する。

  • 従業員一人一人がエネルギーを結集し、企業の発展を望み、一日一日の事業に精励する。

経営危機の時も社員は誰も辞めず、津波被害で大変な時も地域の人たちから愛され続けながらここまできたのが、経営理念からもうなずける。

株式会社カジマ 会社概要
  • 創業:1935年カジマ商店株式会社カジマ
  • 株式会社カジマ設立:2002年4月1日
  • 本社/工場:茨城県東茨城郡大洗町磯浜町816-1
  • 代表取締役:梶間桂子
  • 売上:10億円
  • 従業員:40名
  • ウェブサイト:https://www.kajima-crab.com/

(株)カジマの前身、カジマ水産(株)は経営難に陥り、最大7億円の債務を抱えていた。2002年4月1日付で(株)カジマに生まれ変わり、桂子さんが代表取締役として就任。しかし社名や代表が変わっても、当然ながら急に状況が好転する訳でもなかった。毎日のように債権者や保証協会、そして家庭裁判所、銀行を回る日々が続いた。水産物を仕入れる資金もないので、商社から請負仕事を受注し、その加工収入でなんとかしのいでいた。このような暗い時代が2009年まで続いた。そして2010年にようやく債務を返済することができ、本社の土地、社屋を桂子さん名義に変更することができたのである。

しかし、一息ついたところに、2011年3月11日午後2時46分、東日本大震災が起こった。そして午後4時頃に津波が襲ってきたのである。そのため高台にある自宅に一旦避難し、午後9時頃に工場の状況を見に来た。しかしほんのすぐ近くまで行っても、腰の高さにまであった泥や瓦礫などに阻まれて、30分歩いてもたどりつけなかった。そのため翌朝5時ころに改めて行った。すると本社工場の1階は泥や瓦礫に加え車などにも埋め尽くされていた。専務と二人で「これは、もう神様がやめろと言っているのかも」と話し合ったという。

そして今後どうするかを、娘や息子の子どもたち含め、家族全員で話し合った。すると子どもたちは、「これからも、カジマと関わりたい」と口々に言うのである。カニの加工品を販売していた店の中も、ぐちゃぐちゃの状態であった。甚大な被害であったが、店の柱は太くしっかりとしていたため、構造的にはなんとか大丈夫な状態であった。実は、そこは元々祖母のハナさんが、工場直売の干物やしらすなどを売っていた店であった。そのため桂子さんは、そのハナさんのお墓に行って語りかけ、相談したそうだ。そして、しばらくして「大変だけど、きれいにしてみようかなあ」と考えたという。

お惣菜のお店 かじまお店での販売を再開するにあたって、お肉屋さんのようにエビフライやアジフライの揚げ物もあればいいのではないかと考えた。そのため厨房を作ろうと考え、「経営革新」に取り組み、無事に銀行からも融資を受けることができた。そしてなんと震災と同年の2011年12月1日に「お惣菜のお店『かじま』」をオープンしたのである。揚げ物の他、チャーハンやサラダなども販売し、地域の人たちから大変感謝されることになった。津波の被害から再開を目指す中で、道路に残った残骸や瓦礫の掃除など目の前のことを片付けながら、いつの間にか以前よりも近所の人と仲良くしたい、一緒に前に進んでいきたいと強く思うようになった。

ずわいがにたっぷりコロッケ当時の従業員は、定年や年齢的なことでリタイアした人を除いて、ほとんどの社員は現在も働いている。中には81才の人もいるそうだ。震災のとき、社員は自分の家も被災しているのに、工場に片づけに来てくれた。逆に休みの日には、桂子さんたちが従業員の家の片付けに行ったりした。まさに家族以上の家族と言っても過言ではない。

実は桂子さんの実家は八百屋であった。父の関昭一さんは、生産者や築地などの市場から野菜を仕入れ、卸売りをする商売をしていた。回りから大変信望が厚い人だったそうだ。桂子さんは子供の頃、よくその父を手伝って、いろんな所に行ったとのこと。その手伝っていた中で、いつの間にか商売の基本を身に付けていったのかもしれない。現在その八百屋は、お兄さんの関孝範さんが代表取締役をしている株式会社せきである。また孝範さんは日本野菜協会の事務局長でもある。

ずわいがにたっぷりコロッケ全国コロッケフェスで総合優勝した「ずわいがにたっぷりコロッケ」は、その実家で扱っているジャガイモと、カジマのカニとのコラボレーションから生まれた商品である。最初は、近所の人だけに売っていた。しかし食べた人は皆おいしいと言うし、各種イベントに出店してもすこぶる評判がよかった。そのため、もう少し量を増やすため冷凍したらどうだろうとの話になった。そこで試したところ、全く味に問題がないことが判明した。そして今では約20万個の生産量にまでになり、売上も会社全体の10%を占めるようになったのである。現設備では生産量の限界があるので、卸売りはお断りをしている。まさに桂子さんの「自分で作って、自分で売りたい」を追求した結果がここまで来たといえる。

ずわいがにたっぷりコロッケそして2020年から猛威をふるった新型コロナウイルス。札幌、東京、名古屋、大阪などのいわゆる大都市への出荷が止まり、カニの加工の仕事が蒸発してしまった。もちろんイベントも軒並み中止。そんな中、従業員は仕事がしたいという強い欲求を持ち続けていた。そこで休業せざるを得ない従業員に総菜店に来てもらい、テイクアウトを増やしつつ全員でがんばって営業を続けたのである。一方、販売面ではいいこともあった。それは通販に目が行ったのである。工場で揚げて急速冷凍する冷凍食品に力を入れるようになった。温めるだけでおいしい「ずわいがにたっぷりコロッケ」や「おうちでかじま丼セット」を製造販売するようになった。またその「ずわいがにたっぷりコロッケ」が2020年に大洗ブランドに認証されたことにより、ふるさと納税の対象となり、年々150%の売上の伸びとなったのである。来年2025年は、通販が爆発するような施策を打ち、利益率も良いので、今後は通販に力を入れて行こうと考えているそうだ。

そして、(株)カジマも事業承継を検討する時期に入ったとのこと。桂子さんは、あまり自分が道を作りすぎない方がいいと感じ、最近はあえて一歩引いているそうだ。次の世代である子どもたちには、今まで培ってきた「信頼」を残したいし、引き継いでほしいと考えている。実家の父、昭一も回りから大変愛され「信頼」されていた。カジマも地域や取引先、社員からの「信頼」を得られてこそ持続可能な成長が可能だろうと語った。

株式会社カジマインタビューを終えて感じたことは、変な計算をするようなことが全くない代表だなということ。ご本人も社長になるなんて夢にも思わなかった。結婚するときも、嫁いでいくカジマ水産は既に危ないと言われており、父の昭一からもそれとなく伝えられた。しかし桂子さんご自身は、それならそれで良しと、ある覚悟を持って結婚したそうだ。また、お話しを伺いながら強く感じたのは、常に回りへ「感謝の気持ち」を持ち続けている人だなということ。またそれに加え、その静かな語り口の中に信念というか、太い肝っ玉を持つ方だなということである。そのようなことが、関係する全ての人との「信頼」関係へと繋がっていくのであろう。「信頼」=カジマのDNAだと言える。

インタビュアー: 経営創研株式会社 堀部伸二